言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
(――そう言えば俺、もうだいぶ長時間あっちの世界に帰れてねぇけど、大丈夫なんかな……?)
朝の光を浴びてノビをしながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
「あらぁ?猫ちゃん、いつの間に休憩室から出ちゃったの?」
中庭に面した回廊を歩く俺を見つけ、女官が声を掛けてくる。
界聖宮の女官たちは敷地内にある宿舎に住み込んでいる者がほとんどで、朝になるとゾロゾロと廊下を渡ってくるのだ。
「あのー、女官長。例のネコちゃん、外に出ちゃってますけど、いいんですか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。この猫さんはとてもお利口で、しつけもしっかりしてあるので、無闇に閉じ込めず自由行動をさせてあげて欲しいと、リーストの王女様よりお達しがありましたので」
後々知っていくことだが、フローラがしっかりして見えて案外グダグダなのに対し、一見ボンヤリして見えて意外に要所要所を押さえているのがリィサだ。
この時もこうしてリィサのフォローのおかげで、俺の行動の自由度は飛躍的に上がったわけだが……
(しっかし、広……っ。しかも女官の数、めっちゃ多いな。例の女スパイ、どこにいるんだ……?)
当初の俺は界聖宮を“神殿”か“大聖堂”のようなモノだと誤解していた。
しかし、実際に建物の内部を見ていくと、そこが宗教色の全く無い事務的な空間であることに気づかされる。
神殿や聖堂にはありがちな礼拝堂などは一切無く、代わりに書庫や、よく分からない器具の置かれた研究室のようなもの、幾人もの文官が忙しそうにデスクワークする部屋などがいくつもあった。
(こっちの方へ行くと、確か……俺がこの世界に初めて来た時の中庭があるはず……だよな)
界聖宮の造りは複雑で、いくつもの中庭が存在している。
その中でも俺が初めて召喚された時に降り立ったタイル敷きの中庭は、かなり奥まった人気の無い場所にあった。
何となくそちらの方へ歩いていくと、廊下の先に見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……例の女スパイ!やっと見つけた!)
女スパイは手にモップを持ち、そうじ中を装っていたが、その目は何かを探ろうとするように落ち着きなく辺りを窺っていた。
「にゃー」
あんなにキョロキョロされていては、どの道見つかるだろうと思い、俺はいかにもテンプレな猫の鳴き真似をしながら近寄っていく。
女スパイは一瞬ビクッとしたものの、すぐにホッと警戒を解いた。
「あぁ……何だ、例の猫ね。こっち来ないで。シッシッ」
「ゴロニャー。ゴロゴロニャー」
「きゃっ!ちょっと、懐いて来ないでよ!アンタみたいなのにまとわりつかれてちゃ邪魔……」
女スパイが実力行使で俺を追い払おうとしてきたその時、背後からふいに、感情の全く読めない女の声が聞こえてきた。
「トリーヌ、そこで何をしているのですか?」