言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
わけも分からずいきなり猫の姿にされれば、普通誰でもパニックにもなると思う。
俺も当然のことながらパニックで頭の中身がホワイト・アウトし、気づけばフローラの手を振りほどいて逃げ出していた。
「まぁっ!待ってくださいな!異世界のニャンコさんが無闇に動き回っては、何があるか分かりませんわ!危険ですわ!」
フローラの声が背後から聞こえていたが、トイレ・ハイの猫状態で衝動のままに駆け抜ける俺の耳には入らない。
ただでさえ異世界の重力の違いで身体が軽くなっている上、時速48kmにも達すると言われる猫の脚力が加わった俺は、弾丸のようなスピードであっと言う間に界聖宮の敷地の端の辺りまで到達していた。
そしてそこで、ある人物と出合い頭にぶつかってしまったのだった。
「きゃあぁぁ〜っ!痛いのですぅぅ……」
「い、いってぇ……」
「……あらあらぁ?ヒトの言葉を話す猫さんなんて、あり得ないのですぅ……。あなたぁ、ひょとしてぇ……異世界勇者のアーデルハイド・コータロー・タカハシさん、ですかぁ……?」
のんびりした口調ながら、なぜかいきなり俺の正体を見抜いてきたその人物は、俺にとって見覚えのあり過ぎる……しかもあまり良くない印象の残っている相手だった。
「そういうお前は……赤ずきん姫……じゃなくて、リィサ・何とか……!」
「リィサ・ロッテ・リーストですぅ。“お前”だなんて失礼しちゃいますぅ。ウチの国の人が聞いていたらぁ、不敬罪で牢送りになるところですよぉ」
相変わらず、幼い見た目と、のほほんとした口調にそぐわず、言っている内容がえげつない。
(この女……実は絶対に腹黒だろ……)
まだ直感でしかなかったが、この時点で俺はリィサの本質を的確に見抜いていた。