言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
――そう。俺は、よりにもよって聖玉姫の寝台の布団の中で元の姿に戻ってしまったのだ。
(ヤ……ヤバい……っ!とにかくフローラに顔を見られないようにしないと……っ!)
布団の中にすっぽり潜り込まされていたのを幸いと、俺は身を隠すべく、さらに奥へ奥へと潜っていこうとした。
だが、まだ成長途中とは言え大の男一人、そんなことで身を隠しきれるわけがなかった。
「な……何ですの?何が起こっていますの……?」
おそるおそる、という感じでフローラが布団をめくり上げてくる。
俺はさらに布団の奥へ潜って逃れようとしたが……逃げ切れなかった。
「……よ、よう、フローラ。久しぶり……でもないな。えっと……コンバンワ?」
ちょうどフローラの腰の辺りまで潜り込んでいた俺は、肩から上だけを布団の外に出し寝転がったままという体勢で、そんな再会の挨拶を口にした。
下半身までめくられなかったのは不幸中の幸いだったが、上半身裸なのは隠しようがない。
「え?え!?アーデルハイド様?何故、アーデルハイド様が、私の寝室に、裸で……?」
フローラの顔が一瞬で真っ赤になる。
「キャ…………」
悲鳴を上げられる、と思った俺は、とっさにフローラの口を手でふさぐ。
「ち、違うから!これは……そう、夢だ、夢!フローラ、寝ボケて夢見てるんだよ!」
「ゆ……夢……?」
「そう!夢だ!だってホラ、この前帰ったばっかの俺が、今この世界にいるはずないだろ!?」
「そ……そうですわね……。いるはずがありませんわ……」
フローラがボンヤリした目でつぶやく。
とりあえず、もう悲鳴を上げられることは無さそうだ。
ホッと安堵の息をついたその時、廊下の方からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「聖玉姫猊下っ!お部屋から何やら物音が致しませんでしたか!?」
(マ……マズい……っ!絶っっ対に見られたらヤバい状況だぞ、コレっ……)
俺は素早く室内を見渡し、逃走経路を探す。
「フローラ、悪いけど、ちょっと借りるな」
まだ思考停止中のフローラに一応断りを入れ、俺はベッド脇のイスに引っかけられていたガウンを手早く羽織った。
音を立てないように気を使う余裕も無く、とにかく急いでカーテンと窓を開け、バルコニーへ飛び出す。
(……高い、な。2階か……3階か……。何とか下へ下りられないか……?)
手すりから外の様子を確かめていると、背後から、女官が扉を開けて室内へ入って来る音が聞こえてきた。
「そこに誰かいるのですか!?」
(ヤ、ヤっべー……!)
俺はとにかく女官から少しでも遠ざかろうと、バルコニーの手すりを乗り越える。
(ど……どうする……!?イチかバチかで飛び降りるか!?いや、下手すりゃ死ぬし、下手しなくてもケガくらいしそうだし、そうなったら逃げられなくなって、結局捕まっちまうぞ……!)
為す術もなくバルコニーの端でアワアワする俺の足首に、次の瞬間、ぬるりとした何かが絡みついた。
「ふぎゃ……っ!?」
そのまま絡め取られた脚を、恐ろしい勢いで引っ張られる。
手すりにしがみつこうとするのも間に合わず、俺の身体はそのままバルコニーから引っぺがされて宙を舞った。
(あ……俺、今度こそ死ぬかも……)
強烈な浮遊感を味わいながら、俺の意識はそのままプツンとブラックアウトした。