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第2話:勇者はこうして創られる・9

 それは例えるなら筋トレで使う鉄アレイくらいの重さに思えた。
 長時間持っていれば腕が疲れるだろうが、短時間なら余裕で持ち上げられる程度の……。
 
 試しに頭上高く持ち上げ、先端で大きく円を描くように振り回してみるが、やはり周りがどよめくほどの重さには感じなかった。
 
 不思議に思いながらも、とりあえず例のボスへ向けランスを構え直す。
 見ると、ボスは何だか得体の知れない怪物でも見るような目で俺を見ていた。
 
「な、な、な……何なんだ貴様は!?化け物か!?」
 
 何が何だか意味不明ではあったが、悪の親玉から恐れビビられるというのは悪い気分ではなかった。
 なので、俺はちょっぴり調子に乗った。
 
「武器を捨てて大人しく降伏しろ。さもないと……」
 
 こういう場合のテンプレ台詞を口にしながら再びランスを頭上でぐるぐる回した後、ボスの顔の横をかすめるように勢いよく前へ突き出す。
 
 ランスはビュンと風を切り、ボスの無駄に長く伸びたモミアゲの毛をブァサァァッと激しくなびかせた。
 
「ひ、ひぃぃィッ!?」
 
 ボスは情けない声を上げてその場に尻餅をつく。
 その手からポトリ、とナイフが転げ落ちた。その直後――
 
「今だッ!確保ッ!」
「そいつを取り押さえろ!」
「人質を保護しましたっ!」
 
 いつの間に紛れ込んでいたのか、広場を囲む群衆の中から次々に腰サーベルの騎士たちが飛び出して来た。 
 ある者たちは例のボスを取り押さえ、ある者たちは呆然と石畳に座り込んでいた人質の子どもを保護する。
 その様はまるで立てこもり犯を確保する警察の特殊急襲部隊のようだった。
 
 呆気に取られてその様子を眺めていると、その騎士軍団のリーダーらしき男が一人、俺の前に来て深々と頭を下げた。
 
「あの男は我々聖宮騎士団が身柄を預かります。……よくぞ一人の怪我人も出すことなく事態を収めてくださいました。皆を代表し、心から感謝いたします、勇者様!」
 
「え……?いや、俺、べつに何もしてないっスけど……」
 
 ただ逃げ回ったりランスを振り回したりしただけで感謝されるのはさすがに気マズくてそう言うと、リーダーは何故か感激したようにテンションを上げて身を乗り出してきた。
 
「何と謙虚なお人柄なのでしょう!さすがは勇者様です。やはり武力だけでなく、お心映えも素晴らしくあってこその“勇者”なのですね!」
「いや……べつにそれほどのモンでも……」
 
 何だか話がどんどんエスカレートしている気がして、俺は内心ちょっと引いていた。
 正直、未だに状況が把握できな過ぎて、どうリアクションしていいのか分からない。
 
 その時、犯人逮捕直後の緊迫感漂う広場にまるでそぐわない、のんびり間延びした声が背後から聞こえてきた。
 
「お取り込み中のぉ、所ぉ〜、失礼しますぅー」
 
 振り向くと、見覚えのある赤ずきんフードに三つ編み姿の少女がのほほんとした笑顔で立っていた。
 
「えっとぉー、聖宮騎士団長さん、申し訳ぇありませんがぁ、この方に大事な話があるのでぇ……ちょっと離れていてくださいますぅ?」
 
 見た目は天然っぽくてもさすがに一国の王女の言葉だけあって、リーダーは「ハイッ!」と即答し、ビシッと敬礼するとすぐさまその場を去っていった。
 
「えっと……あんたは確か……リィサ姫……だっけ?」
 
「そうですぅ。さっきゲットさせてもらいましたぁ、あなたの生体データを確認していた所ぉ、気になった点がありましてぇ……」
 
 リィサ姫は相変わらずのスローテンポで話を続ける。
 
「どうもぉ、あなたは骨密度とかぁ、骨格とかぁ、筋肉のつき方などがぁ、この世界の一般人の平均データとぉ、違うみたいなのですぅ……。それでちょっとぉ、私なりに立てた仮説がありましてぇ……。もしかしてこの世界はぁ、あなたの世界と比べてぇ、重力が小さい(・・・・・・)のではないかとぉ……」

☆☆☆

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このページは津籠睦月によるファンタジー小説(ラブコメ&バトル)「ブラックホール・プリンセス」
シンプル・レイアウト版第2話その9です。
用語解説フレーム付きバージョンはもっと先までストーリーが進んでいますが、
シンプル・レイアウト版は後から制作しているため、ストーリーが遅れています。
 
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