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第2話:勇者はこうして創られる・10

「は!?重力が……?それって……」
 
「つまりぃ……この世界だとぉ、あなたはぁ、元の世界では持ち上がらないような重さの物をぉ、軽々と持ち上げられたりぃ、跳躍力がぁ上がったりぃ、するということですぅ。でもその代わりぃ、慣れないうちはぁ、頭に血が上ったりぃするかも知れませんけどぉ……。それにぃ……めまいなどぉ身体の不調が出る可能性もありますぅ……。お心当たりぃありませんか?」
 
「え……っ」
 
 言われて思い返してみれば、思い当たるフシがありまくりだった。
 
「え……っ、じゃあ、このランスを持ち上げらたのも……」
 
「はい。重力が違うせいですねぇ……。この世界よりぃ重い重力の中で生活してきたあなたにはぁ、自然とぉこの世界の平均的な人間よりぃ、多くの筋肉がついているようですぅ」
 
 つまり、普段手足に重い鉛を巻いて生活していると、それを外した時に恐ろしく身が軽くなるという、少年マンガのテンプレ的“修行”と同じ効果が、俺に自動発生したということだ。
 
(スゲー……。修行もしてないのに修行したのと同じことになってるなんて、何という“お得感”……!)
 
 しみじみとナゾの感動を味わっていると、リィサ姫は俺を眺め、幼い顔立ちに似合わぬ皮肉な笑みを浮かべた。
 
「……と言うかぁ、私に指摘されるまでぇこれっぽっちも気づかずにいたのですかぁ?もしかして、それでぇ『こんな重いモノを軽々と持ち上げられるなんて、ついに俺の中の秘められた力が解放されたのか!』なぁんて思ってたりぃしてました?……男の方ってぇ、本っ当に単純でぇ、うらやましいですぅ」
 
 これ以上ないくらいに図星を指され、顔面にカーッと血が上るのが分かった。中二思考的カン違いを冷静に指摘されることほど恥ずかしいことはない。しかも相手はたぶん俺より年下の女子だ。
 
「いやいやいや!そんなこと考えてないし!つーか、重力の違いなんて、いきなり異世界に召喚されてテンパってる状態で意識できなくね!?」
 
「まぁ、そういうことにしておいてもぉ、良いですけどぉ……とりあえずぅ、フローラ様に言ってぇ、界聖玉の力でぇあなたの周囲だけ元の世界と同じになるようにぃ、重力調整してもらった方がぁ、良いと思いますぅ」
 
「へ!?でも、そうするともう、こんな風に怪力発揮したりとかできなくなるんじゃ……?」
 
 正直、知らぬ間にゲットしていたチートっぽい能力を、むざむざ自分から手放すのは惜し過ぎた。
 
「でもぉ……こちらの重力にぃ身体が慣れてしまいますとぉ、筋肉が衰えてぇ、元の世界に戻った際にぃ苦労すると思いますぅ……」
 
 その言葉に俺は気づく。
 
(……そっか。宇宙飛行士が無重力空間から地球に戻って来ると、しばらくは身体がキツいっていうあの状態が、俺にも起こるってことか……)
 
 俺は『地球の重力が重過ぎて日常生活もままならない俺』の姿を想像し、断腸の思いでこのチート能力を手放すことにした。

☆☆☆

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このページは津籠睦月による異世界召喚ファンタジー小説「ブラックホール・プリンセス」
シンプル・レイアウト版第2話その10です。
用語解説フレーム付きバージョンはもっと先までストーリーが進んでいますが、
シンプル・レイアウト版は後から制作しているため、ストーリーが遅れています。
 
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