言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
原因がどの聖玉なのか分かっているなら、その聖玉の持ち主を当たれば早いと思うのだが、事はそう単純には行かないらしい。
「一国の姫をぉ、何の証拠も無くぅ、犯罪者扱いなんてしようものならぁ、国際問題に発展しかねないのですぅ。ですのでぇ、当面の間はぁ、敵が再びぃ何かを仕掛けて来ないかぁ、様子見ですねぇ……」
「で、再び襲って来たところを現行犯で捕まえたり、言い逃れできないような証拠を攫むってことだな?」
「えっとおぉ…………まあぁ、そういうことぉ、ですかねえぇ……」
リィサの言葉は何だか妙に歯切れが悪い。
「先日のボスの狙いはぁ、明らかにぃ、フローラ王女でしたぁ。敵が再びぃフローラ王女を狙って来る可能性はぁ、否定できません……。でもぉ、こちらが警戒してぇ警備を強化したりなどするとぉ、相手も気づいてぇ、襲撃自体をぉ、取り止めかねません。そこでぇ、あなたの出番ですぅ」
「ニャンコ姿で油断させといて、いざとなったら例の怪力でフローラを守るってことだな。任せとけ!」
「ええぇ。まぁ、そういうことですぅ。フローラ王女はぁ動物好きですしぃ、ちょっとくらい珍しい猫さんがいたとしてもぉ、それほど不審には思われないはずなのですぅ。いっそのことぉ、新種の激レア猫さんだから王女に献上されたとでもしておけばぁ、言い訳としてバッチリなのですぅ」
「は……?新種?激レアって、何が?俺、たぶんフツーの茶トラ猫だけど?」
「あなたの世界ではぁ普通なのかも知れませんけどぉ、こちらの世界では全然普通ではないのですぅ。なぜならぁ、この世界の猫さんはぁ、アレが一般的ですからぁ……」
そう言ってリィサは庭園の片隅を指差した。そこにはノラ猫と思しき一匹の猫が、のんびり寝そべり毛づくろいをしていたのだが……
「あ……青緑色の金属光沢……!?」
形状は地球の猫と全く変わらないのに、毛の色だけが明らかにおかしい。
まるでクジャクの羽毛の一部のようなメタリックなブルーグリーンだ。
「……重力だけじゃなく猫の毛色まで違うのか。さすがは異世界……」
「ですねぇぇ……。私もビックリですぅ。こぉんな素朴で地味……あ、いえぇ、落ち着いた色合いの猫さんがいるなんてぇ……。こちらの世界の猫さんはぁ、みぃんな派手でキラキラしててぇ、“動く宝石”と呼ばれていたりぃするのですぅ」
「悪かったな!キラキラしてなくて!地味で!」
「いぃえぇ……これはこれでワビサビ的な味があってぇ良いのですぅ。特にぃ、このピンク色の肉球なんてぇ何だかお菓子みたいでぇ美味しそうなのですぅ」
「あ、ちょっ……揉むな!ちょっとしたセクハラだぞ、コレ!」
事前承諾無しの肉球モミモミに猛抗議していると、向こうから可愛らしい足音が聞こえてきた。
「ニャンコさ〜ん!どこへ行ってしまいましたのー?」
「フローラだ!」
「あなたを探しているようですねぇ。丁度良いのでぇ、このままフローラ王女にぃあなたを預けますぅ。……ちゃあんと猫さんのフリ、しててくださいねぇ」
「おう!任せとけ!」
猫のフリなんて簡単だ。適当にニャンニャン言ってゴロゴロ寝転がっていればいいんだから……この時の俺はまだそんな風に、猫も演技もナメていた。
芝居経験もロクに無いド素人が、猫などという人外の役を24時間演じ続けなければならないという困難を、この時の俺はまだ、サッパリ理解できていなかったのだ。