言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
そのまま問答無用でフェリアに連れて行かれた部屋には、例のレトロ・ナース風の衣装に身を包んだ十数人の女たちがいた。
下は10代から上は30代と思しきその女たちは、こちらに気づくとキャーッと歓声を上げて群がってきた。
「女官長っ!何ですか、その珍しい色のネコちゃんはっ!」
「フローラ姫様がリースト国の王女様からお預かりになった猫だそうです。今日から私たちでお世話をすることになりました」
フェリアの口調はフローラに対してのものとは打って変わって柔らかい。顔からも冷たさや厳しさが消えて、まるで別人のように優しげに見えた。
「あぁ。姫様のお手元に置いておくのは危険ですもんねー。いつ例の“歪みの穴”が発生するか分かりませんもん」
「ウッカリ吸い込まれでもしたら可哀想ですもんね」
聖玉宮の女官である彼女たちの会話により、俺は思いがけずフローラの“ペット飼えない事情”の真実を知ることになった。
(ひょっとして、さっきの『猫が聖玉姫にケガさせるとマズいから』ってのは、フローラが本当の理由を知って傷つくのを防ぐための、この人なりの気遣いだったりすんのか……?)
真意を探ろうとするようにフェリアの顔を見上げていると、女官の一人がおそるおそると言った様子で発言してきた。
「あのー……フェリア様。その猫、本当に大丈夫なんですか?あのリィサ姫様からの預り物、なんですよね?見た目は可愛らしくても、油断してるといきなり真ん中からパックリ割れて、中から得体の知れない触手状のナニカが現れて、あまつさえ我々を襲って来たりとか……しませんよね?」
フェリアはその発言に、一瞬じっと俺を凝視してきた。が、すぐに笑って否定する。
「大丈夫でしょう。いかにリィサ姫様が命聖玉の聖玉姫でいらっしゃるとは言え、キメラの生成はもう何百年も前に聖玉姫協定で禁じられています。このように若そうな猫がキメラであるはずがありませんわ」
(いや、何百年か前にはキメラ創られてたんかい!?しかも、あの赤ずきん姫の持ってる聖玉の力で?……やっぱあの女、ヤバいヤツなんだな……)
「それに、ホラ。毛色は確かに変わっていますが、どこからどう見ても、ごく普通の可愛い猫ちゃんではありませんか」
言いながら、おもむろにフェリアはその細く長い指先で俺の頭や喉や耳の辺りを撫で始めた。
最初は単に「あ、ナデナデされてるな」くらいの感じだったのだが、その絶妙にゆっくりとした焦らすような触り方に、だんだんと身体の奥に妙な感覚が芽生え始める。
(な……何だ!?この感覚……!身体がムズムズして……何かが……喉の奥から何かが出て来る……!?)
気づけば俺は猫化した本能のままに喉をゴロゴロ鳴らしていた。
「ウフフフ。やっぱり中身は他の猫ちゃんたちと同じですわね。ココがキモチ悦いのでしょう?ほ〜ら、もっとあちこち撫でてあげますわよ。もっとゴロゴロ甘えてくれてよろしいのですわよ」
フェリアはどこかSっ気を感じさせる喋り方で、やけに楽しげに俺を撫で続ける。
(この女……さては猫の扱いに慣れてやがるな……?俺、完っ全に弄ばれてねぇ?悔しい……っでも、ゴロゴロ言っちまう……!)
気づけば俺は『もっと撫でて』とばかりに、毛布の上をクネクネ転げ回っていた。
「きゃーん!可愛い!女官長!私も!私も触りたいです!」
「ズルいわ!私にも撫でさせて!」
フェリアだけでも手一杯な感じなのに、四方八方から女の手が伸びてきて、身体中を撫で回される。
(ちょ……待……っ!もうゴロゴロが……っ、ゴロゴロが追いつかねぇよ!)
こうしてレトロ・ナース風女官の群れに全身くまなくマッサージされまくった俺は、気づけば身体中の力という力が抜けきった、ぐでんぐでんのフニャフニャ状態にされてしまったのだった……。