言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
トリーヌと例の姫との密会場所は、街中にある自然公園だった。
昼間なら市民の憩いの場としてそれなりに人気の場所だが、夜になると真っ暗になってしまうため、日も暮れようというこの時間帯ではトリーヌたち以外に誰もいなかった。
用心のためか、例の姫は木が鬱蒼と繁る公園の、さらに奥まった木々の陰に隠れるように立っていた。
目深にかぶったつば付きの帽子に、暗い色のコートとブーツ、襟付きシャツにパンツスタイルと、一見男か女かも分からない地味な服装だったが、長身でスタイルが良いせいか、遠目からでもどことなくモデルか何かのような存在感を感じた。
「……姫様っ!!」
恋する乙女の瞳でトリーヌが姫に突進していく。
姫はチッと舌打ちし、抱きつこうとするトリーヌを腕一本で押し止めた。
「大きな声を出すな。人に見られると厄介だろう」
「こんな時間に誰もいませんよぉ。あぁ、姫様……相変わらずの麗しいお姿……。お会いしとうございました……っ」
「相変わらず鬱陶しい奴だな。……で?例の件について何か分かったことはあるか?」
傍から見ていてもトリーヌと姫との温度差は明白だった。
だが、どんなに冷たくあしらわれようと、トリーヌのうっとりした目は変わらない。
「私、姫様のために頑張って調査してます。でも、敵もなかなか手強くて……」
「……あぁ、いい。まどろっこしいから、お前の心に直接訊く」
姫はうんざりした声でそう言うと、胸元からペンダントを引っ張りだした。
トリーヌが持っていたのと同じ、翼を広げた竜で十字を象ったペンダントだ。
ただし姫のペンダントには、中央にフローラやリィサの聖玉と同じ虹色の石が嵌まっているようだった。
姫はその石に指先を触れ、しばらく無言になる。
(アレは……聖玉?やっぱりコイツが、例の心聖玉の姫なのか……?)
茂みの陰から凝視していると、ふいに例の姫がピクリと肩を揺らし、こちらを見た。
氷のような冷たい視線が俺を貫く。俺は背筋にゾクッとしたものを感じて硬直した。
(何だ?見つかった?……いや、でも俺、今、猫だし。バレるわけねぇだろ。コイツらが探ってる異世界召喚で連れて来られたのが俺だなんて)
俺はついうっかり心の中でそんなことを考えてしまっていた。
今にして思えば、心聖玉などと名のついた聖玉なのだから、心を読む力もあると考えて用心しておくべきだったのかも知れない。
だが、フローラの“敵”を確認するという目的で頭がいっぱいになっていた俺にそんなゆとりは無かった。