言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第2話(イマココ)
「……うわっ!人がジャマで思うように逃げらんね……っ」
元来た広場は相変わらず人でごった返していた。
しかも逃げて来る人々のパニックが伝染して広場中が大混乱状態だ。
下手すると走ってくる人々に押しつぶされそうで、歩くことさえままならない。
「このままでは街の人々を巻き込んでしまいます!ここは要求に従い、一騎討ちをするべきでしょう」
「いけません!聖玉を完全に制御することもおできにならないのに、何を仰るのですか!」
この時ばかりは騎士その1も必死の形相でフローラを止める。
フローラはハッと表情を強張らせ、唇を噛みしめうつむいてしまった。
「ですが……私のせいで国民の一人が危機に陥っていますのに……」
大きな瞳から透き通った雫が盛り上がっては零れていく。
突然の美姫の涙に俺も騎士その1もひどく狼狽し、何とかこの涙を止める手段が無いものかとキョロキョロ視線を動かしまくる。
その時、偶然俺の顔に視線を向けた騎士その1が、名案を閃いたように叫んだ。
「そうだ!こんな時こそ勇者の出番じゃないか!あんた、今まで相当な修羅場をくぐり抜けて来たんだろ!?だったら酔っ払った元犯罪組織のボスを倒すのなんか、簡単にできるよなぁ!?」
(そ、その勘違いが今ここで効いて来んのかよっ!?)
勘違いを正せなかったことを今さら悔いてももう遅い。しかも悪いことにその声は、ちょっとマズいくらいに大きくて、よく通り過ぎていた。
「ん?勇者だと?」
「勇者様が現れてくださったの!?」
「見ろ!あのフローラ姫様とお手を繋いでいるツワモノがいるぞ!あの方こそ勇者に違いない!」
初めは俺たちの周辺だけだったその声は、波のように広場中へと広がっていく。
最初は「勇者だって?」という疑問形のざわめきだったが、やがてそれは明確な一体感を持った“勇者コール”へと変わっていった。
「ゆ・う・しゃ!」「ゆ・う・しゃ!」「ゆ・う・しゃ!」
それは“勇者”を称えるものであるのと同時に『勇者だったら悪者をやっつけろや!』という言外の圧力でもあった。
俺は正直、頭が真っ白になって何も考えられない状態だった。
だが広場の人々は『さぁ一騎討ちでも何でもしろ』とばかりに広場の中央辺りに闘いのためのスペースを空け始めた。
人がいなくなって通りやすくなった道を、子どもを片腕で羽交い絞めにした男が悠々と……いや、やはり多少ふらつきながら歩いてくる。男は広場に響く勇者コールに驚いたように足を止め、辺りを見渡していたが、やがて恍惚の表情でこう言った。
「そうだ!俺はあの暴虐王女を倒し、皆を恐怖から解放してみせる!俺は今日ここで勇者となるのだーっ!」
「いや!お前じゃねーよ!?」
状況も忘れて思わずツッコんでしまった後、「ヤバい!」と思ったが後の祭りで、男の目は完全に俺をロックオンしていた。