言ノ葉ノ森TOP>INDEX(もくじ)>シンプルINDEX>第3話(イマココ)
シャワーから溢れる湯さえも巻き込み、空間を渦巻き状に歪ませて現れた、一本の華奢な腕。
相変わらずホラーなビジュアルだが、その手は間違いなく異世界の美姫・フローラのものだった。
(えぇぇー……。昨日の今日どころか、今日昼の今夜でもう再召喚かよ。早くね?いや、嬉しいけど)
予想外の再会(?)、しかも自宅の風呂場にフローラの手というシュール過ぎる光景に、俺の思考はプール後の授業の半居眠り状態くらいにまで低下していた。
だから、一番重大な事実に気づくのに遅れた。
(いや、よく考えたらそれどころじゃない!今、俺、完っ全に真っ裸だぞ……!今はマズい!つーか、何でよりによってこのタイミングなんだよ!?)
「あ、あのさーフローラ……。気持ちは嬉しいし、俺もそっちに行きたいのは山々なんだけどさ……。もうちっとばかし待ってくんね?」
ダメ元で“手だけフローラ”に話しかけてみる。だが、その手は引っ込むどころか俺を手探りで探そうとするようにワサワサと蠢きだす。
(あぁ〜っ……やっぱ声は届かないのか……)
俺はとにかく“手だけフローラ”に捕まらないよう匍匐前進のポーズをとる。
このまま全裸で異世界召喚などということにでもなれば、王女に無礼を働いた罪か何かで牢にぶち込まれたり、下手すると何らかの刑に処されたりもしかねない。
(とにかく今は一着でも多くの服を……っ!)
こうして異世界召喚から必死に逃れようとする勇者を捕まえようとする王女という、よく分からない構図が生まれたわけだが……
空間をねじ曲げられた風呂場の床は絶妙に歪みナナメっていて、気づけば俺は知らず知らずのうちに自ら歪みの中心――フローラの手へと近づいてしまっていた。
「……ひッ!?」
フローラの指先が俺の濡れた腕に触れた……と思ったら、次の瞬間には手首を鷲掴まれ、凄まじい力でナゾの異空間にひきずり込まれていた。
「ま、待……っ!今はマズいから!お互い気マズくなるだけだから!」
いくら叫んだところで召喚は止まらない。
相変わらずの阿鼻叫喚の後、向こうの世界へと引きずり出される……